【犬編】第4回:食源病

食源病

"食源病"は聞き慣れない言葉ですが、食べ物と密接に関連する病気のことです。ここでは身近な話題である肥満、食欲不振、吐き戻し、下痢を取り上げます。

肥満

発生率

肥満は、人と暮らす犬の栄養上の疾病の中で最も多いものといえます。適正体重の15%を超えた場合は肥満です。人と暮らす犬の24~44%が肥満であるとの調査報告があります。犬種、体格、体構成によって適正体重は著しく異なります。純血種の標準体重が書物に記載されていますので参考にしてください。混血種の適正体重はさまざまです。家族の方は自分の犬の適正体重を知っておかなければなりませんが、大まかに考えると成犬(成熟)に達して1年以内に測定した体重を適正体重とすると良いようです。ただし、子犬の頃から肥満でなければの話です。
犬の肥満の発生率は加齢とともに増えていきます。4歳以下では10~20%、12歳以上では実に40%以上が肥満との報告があります。また雄より雌に多く、去勢(避妊)犬での発生率はそうでない犬の2倍程度とのことです。さらにご家族が肥満あるいは中高年だと、犬も肥満になる傾向が高いようです。その要因は、運動不足気味になる、食べ物をもらう機会が多くなるからだと言われています。

肥満の影響

肥満はさまざまな疾患の引き金になります。そのいくつかを表示します。
疾患 解説
運動器疾患 重い体重を支えなければなりません。背骨、関節などに負担がかかって傷みます。
適正体重と実際の体重の差が大きいほど、運動器疾患の発生率は高まります。
呼吸困難 過剰な肉体には過剰な組織があります。
それだけ酸素要求量が増加します。
特に運動時などに呼吸困難に陥ることがあります。
心臓血管系疾患 肥満犬は程度の差はあれ高血圧気味となります。
高血圧は心臓・腎臓に負担をかけます。
心手術のリスク 麻酔薬は脂肪組織に吸収されることから、量を増やさないと手術ができません。
麻酔薬が増量されるとそれだけリスクが高まります。
また、肥満犬は麻酔薬の代謝が悪いのが一般的です。
麻酔がクリアできても、脂肪が邪魔をして、細かい手術が困難ですし、傷の治りも悪い傾向があります。
その他 肝機能、抵抗力、繁殖能力が低下します。
皮膚疾患、糖尿病も増加しますし、悪化させます。

肥満の原因

肥満の原因はとても単純です。
「食べる量が消費される量より多い」
それだけです。
成熟動物の体重は、摂取エネルギーが消費エネルギーを7~9kcal超過するごとに1g増えるといわれています。
また、必要エネルギー量をわずか1%だけ超過した食事を与え続けると、中年になったときには体重が25%も超過します。
25%超過は立派すぎる肥満です。
少々のダイエットでは元には戻りません。
「食べる量が消費される量より多い」原因
  1. 社会的圧迫
  2. 食事性因子
  3. 去勢(避妊)の影響

社会的圧迫

社会的圧迫は二つに集約されます。「他の犬に食事を取られたくない」、「家族に気に入られたい」です。
二頭の犬に同時に食事を与えると普段よりよけいに食べます。これは「取られたくない」という自然の本能です。同一家庭内で多頭飼育されている場合は要注意です。
家族から差し出された食べ物を食べると、「どう、おいしいでしょ?」と声をかけられ、撫でてもらえることもあります。すると犬は「差し出された食べ物を食べると、声をかけられたり、優しく撫でられたり、注目してもらったりできるんだな」と思い込みます。家族の方も食べ物を与えると犬が喜ぶからと思い込んでいますし、愛情表現の一つだと誤解しています。その結果が、与え過ぎ、食べ過ぎ、肥満への道へ突き進みます。これが「肥満の犬は、その家族の身勝手さによる孤独な犠牲者であることが多い」といわれる所以です。
肥満の鍵を握っているのは家族なのですが、犬に食べさせ過ぎる理由があるようです。
なぜ食べさせ過ぎるのか
  1. 犬を人間と同じように扱っている
  2. 好む食べ物だけに犬を馴れさせ、満足させてしまっている
  3. 犬に必要な量を考えず、多量に与え、そしてそれを習慣として強制している
  4. 犬が腹をすかし、食欲があることが、健康のバロメーターだと思っている
  5. 犬に寂しい思いをさせたという罪悪感から、あるいは留守番をさせるときの言い訳として、つい与えてしまう
  6. 食事以外の菓子類等のカロリーを無視している
  7. 散歩に連れ出すかわりに食べ物を与える
  8. 十分な運動をさせない
  9. 自身も肥満(自身が運動不足→犬も運動不足、自身の食べ物は高カロリー食→それを犬に与える、犬の肥満をあまり気にしない)

食事性因子

嗜好性が高く、利用効率が良く、かつカロリーが高い食べ物ほど、肥満を招きます。肥満の犬、肥満傾向の犬は、嗜好性には非常に敏感で、満腹感の自覚は異常に鈍いといわれています。
なかなか満腹感が得られず、必要量を超えて好きな食べ物を摂取してしまうという悪循環に陥ります。
嗜好性を高める要素の一つは脂肪です。その脂肪はカロリーが高めです。さらに蛋白質や炭水化物より効率良く利用されます。まさに肥満にとっての三大悪がそろっているといえます。
また、食べ物中に砂糖が多く含まれている場合も肥満を招きやすくなります。

去勢(避妊)の影響

去勢(避妊)によって肥満の発生率は約2倍に増加するといわれています。異性を求めての徘徊が減り、結果としてエネルギー消費量が減少します。
ところが、習慣的に食べる量はそれ以前と変わりません。
消費エネルギーより摂取エネルギーが多くなります。
去勢(避妊)によって食べる量がさらに増えるということもあるようです。老齢犬の肥満も同じような理由によります。

減量作戦

健康上、問題が生じ始めるのは、適正体重の15%を超えたあたりからです。
減量作戦にはいろいろな方法があります。心理学的促進法、運動療法、食事管理、そして薬物、手術などです。心理学・運動・食事管理の3つをうまく組み合わせながら、減量作戦を遂行するのが理想的だと考えられます。
減量作戦の鉄則
  1. 肥満であること、減量が必要なことを家族が自覚する
  2. 適度な運動を継続する
  3. 食事をきちんと管理する

心理学的促進法

肥満の犬を取り巻く全ての関係者が、「この犬は肥満だな、減量作戦が必要だな」ということを理解し、自覚することが最も大切です。
一人でも抜け駆けする関係者がいると、減量作戦はものの見事に失敗します。家族だけではありません。
ご近所のかわいがってくれる人達にも協力してもらわなければなりません。
「最近はいつもおなかをすかしているのね、かわいそうに。お菓子をあげるから、隠れて食べなさい」
とても親切なご近所さんは、実はありがた迷惑になります。

運動療法

減量作戦の原点は「カロリー摂取量を消費量より少なくする」です。
脂肪組織を1ポンド(≒454g)減らすには3,500kcalが必要です。
カロリー摂取量のコントロール、すなわち食事制限も必要ですが、エネルギー消費量が多くなれば相対的にカロリー摂取量が減って、減量につながります。
エネルギー消費量を確実に増やすことができる……それは運動です。人間の場合ですが、運動によるエネルギー消費量は、平坦地でのんびり歩行で2.6~4.9kcal/分、早足歩行で5~7kcal/分、ジョギングで7~12kcal/分です。犬もほぼ同様のエネルギー消費量と考えられます。ただし、運動量を突然多くすると、運動量に応じて食べ物の摂取量も増加します。これは悪循環です。運動の程度を徐々に増加させるのがポイントです。軽運動から徐々に中等度運動にすると、食べ物の摂取量には影響しません。また、運動は犬の精神状態も良好にします。
理想(適正)体重に戻ったからといって、すぐに運動をやめてはいけません。運動を続けることが大切です。体重が減少すると、同じ運動量に要するエネルギーは少なくてすみますので、すぐに摂取量過多になってしまいます。また、運動をやめるとリバウンドが起こるといわれています。人間と同じです。

なお、運動が良いといっても、著しく肥満の犬、心臓疾患・呼吸器疾患を持つ犬には慎重に行う必要があります。運動が危険を伴うこともあるのです。

食事管理

まず体重減量の目標を設定します。初期には15%減が目標です。
次に目標達成までのおおよその期間を予想します。適正体重の15~20%超で5~7週間、20~30%超で7~9週間、30~50%超で11~13週間が目安です。
ただし、さまざまな条件で短くなったり長くなったりします。食事管理のポイントを表示します。
食事管理のポイント
  1. カロリー摂取量を適正体重維持に必要な60~70%まで徐々に減らす
  2. 食事の回数を3~4回にする
    (分けて与えると満腹感が得られます)
  3. 食事の準備中、食事中は、犬を部屋の外に出しておく
    (家族が人間の食事を犬に与えないようにするためです)
  4. フードは、高繊維質・低脂肪・低カロリーで、かつバランスの良い減量用のものにする
    (バランスが悪い減量用フードでは弊害が出てきます)
  5. 毎日2回、10~15分のキビキビした運動をさせる
  6. 2週毎に体重を測定し、体重の経時的推移をグラフにする
    (ご家族のやる気の継続のためです)

食欲不振

採食に関する犬の特性

市販フードを無制限に(自由に)与えると、犬は1日中少しずつ食べています。朝、昼、晩と決まった時間に食べるわけではありません。
一定量(つまり自分の体重を維持するために必要な量)を食べると採食をやめます。食べる量を自分で調節し、適正体重を自ら維持する能力です。
この自己調節能力は犬種・個体等によって差があります。肥満になりやすい犬種は自己調節能力が劣っているとも考えられます。
嗜好性の高い食事にすると、犬自身が自分の適正体重を高く設定するそうです。
好きな物をたくさん食べようと身勝手な自己調節をするのです。
異常な採食(糞食、植物食、異食症)も紹介しておきます。
出産後に母犬が子犬の糞を食べるのは、巣(産室)を衛生的に保つための行動であり正常なことです。
他の動物、特に草食動物の排泄物に強く誘惑されるのも、正常なこととされています。一方、成犬になっても、自分自身、あるいは他の成犬の糞を食べるのは異常なことと考えられています。
成犬の糞食の意義はよくわかっていません。糞食をやめさせるには、嫌いな臭いで条件づける、消化性の高い肉を与えるなどがありますが、排泄された糞をすぐに片付ける、他犬の糞には近づかないようにするのが手っ取り早い方法です。
犬はときどき道端の草を食べます。これも理由が明確ではありません。草を食べた後に嘔吐することが多いようです。汚染物質を吐き戻す効用があるのかもしれません。植物の成分に栄養学的・薬学的価値があるようにも思えます。なんらかの快感を与えているようですし、異常なほどでなければ心配は要りません。
通常の食べ物ではない不消化性物質を食べる症癖を異食症といいます。子犬が不消化性物質(石、木片、おもちゃなど)を食べることがあります。これは好奇心からの環境探索行動の結果です。行動自体は正常の範囲ですが、物が物だけに、食べてしまえば危険です。
成犬が石を食べることがあります。
これは好きで食べているというより、石を運んでいるときに偶発的な事故として発生することが多いようです。
いずれにしても、ボール、棒などに興味を持たせ、それらが遊び道具であることを認識させると解消していきます。

食欲不振

嗜好性、感触、温度、目新しさや親しみやすさによっても、食欲は促進されたり抑制されたりします。
しかし、食欲の増減は、疾病の経過の指標となることが多く、注意を払わなければならないことです。
食欲不振の原因は3つに大別されます。一時的なもの、病的なもの、それから薬物がからむものです。
家族がいないところ、家とは違う場所などで、食欲が落ちることがあります。これはまったく一時的なことで、健康を害することはありません。その後必ず食欲は戻ってきます。
食欲をコントロールするのは、脳の視床下部にある空腹中枢と満腹中枢です。空腹中枢が刺激されると食欲が増進しますし、満腹中枢が刺激されると、食欲が抑制されます。視床下部に病的な障害があると食欲に異常が見られます。
味覚・嗅覚は食欲に多大な影響を与える感覚ですが、加齢、頭部損傷、やけど、ガン、慢性腎不全などで影響を受け、食欲が低下することがあります。ある種の薬物も味覚・嗅覚に影響を与え、食欲不振を招くことがあります。人間が食欲不振に陥る原因を考えると、犬の食欲不振も容易に理解できます。
栄養不良で食欲不振の犬には、特に禁忌事項がない限り、速やかに栄養補給を行う必要があります。なんらかの病気が内在している可能性が高いと思われます。栄養補給の目安を表示します。
栄養補給が必要なとき
  1. 通常の体重、あるいは理想体重より10%以上の体重減少があるとき
  2. 手術を受けたり、怪我したりしたとき
  3. 3~5日以上にわたって食欲不振が続いたとき
  4. 嘔吐、下痢が続き、吸収不全があるとき
  5. やけどなどで排出液があるとき
  6. 感染症などで発熱したとき
  7. ガンその他の慢性疾患、器官機能障害があるとき
※ これらはやや重症と考えられます。まずは動物病院で診察を受けるようにしましょう。
軽い食欲不振は家庭でも対処できます
  1. 食事のときにそばにいて、声をかけてやる
  2. 高嗜好性の食べ物を少し混ぜる
  3. 食事を体温程度に温める

消化器疾患

消化器とは、咽頭、食道、胃、小腸、大腸などです。
ここに障害があると、十分な栄養を吸収することができず、栄養不良となります。
吐き戻し(吐出、嘔吐)、下痢について簡単に紹介します。

吐き戻し(吐出、嘔吐)

食べ物の吐き戻しには二種類あります。吐出と嘔吐です。
吐出とは、咽頭・食道に障害がある場合で、食べ物は胃に到達していませんので、食べてからすぐに、あるいはしばらく経ってから吐き戻すこともあります。吐いた物は未消化物です。
吐出の主たる原因は、咽頭、食道に異物があったり、炎症があったりした場合です。
一方、嘔吐は食べ物がすでに胃に達した後に起こることです。食べてから数分、あるいは数時間後に見られます。吐いた物は未消化のことも部分的に消化されていることもあります。食事を摂った後に嘔吐が見られた場合は食事の問題、あるいは消化管の問題が考えられます。例えば、幽門閉塞(胃から十二指腸への出口の閉塞)、腸閉塞、胃炎、あるいは大量のドライフード、食中毒などです。
一方、食事とは無関係に起こる嘔吐は、中毒、感染症、代謝障害(膵臓・甲状腺・副腎などの障害)、そして腎臓・肝臓に疾患があるときです。
吐出・嘔吐は、健康な犬でもたまに見られることですが、それが頻繁になったり、ひどかったり、長引いたりした場合は異常と思わなければなりません。
特に嘔吐では体液が失われ生命を脅かす問題に発展するときもあります。食事と関係があるのか、食後どれくらいで見られたか、吐いた物はどんな状態だったか(消化の状態、色、粘り、血液の有無)、同時に下痢もあるかなどの情報は診断材料としてとても有用です。犬をつぶさに観察することが大切です。
種類 いつ 吐いた物 どこに問題が
吐出 食べてすぐ
食べて数秒後
未消化 咽頭、食道に異物や炎症
嘔吐 食べて数分後
食べて数時間後
一部消化 消化管に障害
食事とは無関係 一部消化 中毒、感染症、代謝障害、腎臓疾患、肝臓疾患

下痢

下痢の原因はさまざまです。食事、中毒、感染症、アレルギー、ストレス、環境の変化などきりがありません。下痢によって水分と電解質が失われます。長引くと体力が落ちてしまいます(特に幼犬)。下痢をしたからといって、パニックになってはいけませんが、適切な対処をしなければなりません。まずは原因をつかむことです。動物病院の先生に全てを任せがちですが、犬をよく観察して、どんな状態なのかを的確に伝えることができれば、先生方の診断をより正確なものにすることができます。
持続的・慢性的に下痢が見られる場合は消化器官(膵臓、肝臓など)の疾患に関係していることが多いようです。また、寄生虫の可能性もあります。まずは動物病院で検査を受けるようにしましょう。
一方、急に、あるいはときどき下痢が見られる場合は"腸に問題あり"がほとんどです。
なお、感染症(例えば犬パルボウイルス感染症)などでも急性の下痢が見られます。
腸には小腸と大腸があります。下痢の原因が小腸にあるのか大腸にあるのかを見極めることも大切なことです。泥状・水様性の下痢、あるいは脂肪便(脂肪が混じった便で腐敗臭がある)は、小腸に問題ありです。ねっとりした(ゼリー状の粘液を含む、場合により血液も)下痢・軟便は大腸に問題ありと考えてください。ただし、例外もありますし、それほど単純ではありません。
その他、フードを変更した、人間の食べ物を与えた、牛乳を多量に与えた、薬を服用させている、嘔吐の有無(どのような嘔吐なのかも含む)なども有用な情報です。