【犬編】第3回:各時期に必要な栄養

成長期(子犬)

授乳期

出生後3週頃までを授乳期といいます。母犬から母乳をもらっている時期です。
この時期に子犬を家庭に迎えることはないかもしれませんが、授乳期の注意事項も知っておきましょう。
授乳期の食事は、母乳、そして代用乳(犬用ミルク)です。

授乳期の注意事項

  1. 速やかに初乳を飲ませて、母犬の免疫力を子犬に移行させる
  2. 十分に栄養を与える
  3. 保温に気を使う

初乳とは出産後短期間だけ分泌される特別な母乳です。初乳にはさまざまな病原微生物に対する抵抗性の素(移行抗体)などが含まれています。初乳を飲んだ子犬は、腸から移行抗体を吸収して母犬の抵抗性を獲得します。無防備な子犬にとって初乳は最重要といっても過言ではありません。

体重があまり増えないときには代用乳で補う必要もあります。なお、代用乳とは牛乳ではありません。犬用ミルクです。
牛乳中のラクトース含有量は犬の母乳よりはるかに多く(約3倍)、牛乳を多量に与えると下痢を起こしたり、下痢がひどいと脱水状態に陥ったりすることがあります。出産頭数が多い場合、あるいは虚弱な子犬がいる場合、平等に母乳が行き渡っていることも監視しなければなりません。母乳を十分に飲むことは授乳期の子犬にとって必須のことです。
授乳期の子犬は体温の維持機能がまだ十分ではありません。保温には配慮が必要です。そうしなければ、たちまち脱水状態に陥り、体温が下がって衰弱します。

離乳期

本格的な食事が必要になるのは離乳期から(生後1カ月頃から)です。最近は多種多様な犬用離乳食が市販されるようになりました。この時期はフードに慣らしていくことが重要です。ろいろな種類の食事に慣れさせる必要もあります。この頃の経験は生涯の味覚を左右しますし、さまざまな物を混ぜた食事で育てられた犬は、初めて目にするものでも受け入れる行動が強くなるようです。

離乳期の子犬の食欲はとても旺盛です。逆に食べ過ぎに注意しなければなりません。子犬用フードを熱過ぎないお湯で少しふやかし、これに犬用ミルクをふりかけるのも一方法です。お湯が多すぎて流動食になってはいけません。離乳食はあくまでも固形フードへのつなぎです。お湯の量は成長とともに徐々に減らしていきます。

離乳期の注意事項

  1. 急な変更でストレスをかけないよう、徐々にフードに慣らしていく
  2. いろいろな種類の食事を
  3. 食べ過ぎないように

発育期

離乳期が終わると発育期に入ります。発育期で重要なことは食事の質です。子犬用として特別に処方してある高品質の製品を選ばなければなりません。
AAFCO(Association of American Feed Control Officials:米国飼料検査官協会)基準をみますと、成犬用と大きく異なるのは、蛋白質含有量が多い(成犬18%、発育期22%)、脂肪含有量が多い(成犬5%、発育期8%)、カルシウム、リン、ナトリウム、塩化物が多いなどです。嗜好性、栄養素利用率、蛋白質の品質などの情報は残念ながらありません。事前チェックが必要です。

発育期の食事の最終目標は平均成長率に沿って成長することです。純血種では平均成長率のデータが参考になります。
ミックス犬では参考データがありませんので、親犬の体型(小型、中型、大型)を参考にするとよいようです。

この時期は食べ過ぎに注意しなければなりません。発育期の肥満は脂肪細胞の大きさと数の両者が増加します。成犬では脂肪細胞の大きさの増大だけです。発育期に過剰の脂肪を摂取すると、脂肪細胞の総数が増加して生涯を通して肥満になりやすい素地を作り、健康上のリスクを背負っていくことになります。大型犬種での過剰な食事は発育速度を異常に促進し、多くの深刻な骨格の問題を発生しやすくするようです。成長速度を最大にするより、最適な骨格の形成が促進されるようにしなければなりません。

3カ月齢までの子犬に必要なエネルギー量は、成犬の維持エネルギー量の約2倍といわれています。当然ながら、成長とともにそれは減少していきます(単位重量当たりのエネルギーは減少しますが、体重も増えるので総エネルギー量は成長とともに多くなります)。決められた時間に決められた量を与えて食事をコントロールし、食事とともに糞便の量と形状、排便回数に注意を払いたいものです。

成長期に間違った食事を与えるといろいろな弊害が出てきます。まとめて示します。

成長期の食事と弊害

食事 弊害
成犬用フードを与えた 単位重量当たりのエネルギー不足になります。
より多くのエネルギーを得ようと絶えず食べ続けることになります。
胃腸は常時満杯状態です。結果として、後年、急性胃拡張、胃捻転のリスクが高まります。
ミネラルを過剰に与えた 特定のミネラルだけが多くなると、他のミネラルの吸収が悪くなります。
結果として、発育不良、皮膚疾患、精巣萎縮、免疫抑制、甲状腺機能低下症、骨疾患がみられることがあります。
必須アミノ酸が少なかった 発育が遅れ、免疫機能も低下します。
被毛も劣悪となり、筋肉の発達も悪くなります。

発育期にビタミン、ミネラル、蛋白質を食事に添加される方もいます。
良かれと思って与えられるのですが、かえってバランスが崩れ、害になることが多いようです。
臨床的になんらかの栄養障害が見られる場合は、添加物の追加を考えるよりフード(食事)そのものを高品質なものに替えた方がよいとの意見もあります。

この時期は、高品質の食事とともに適度な運動、適正なワクチン接種、寄生虫のコントロール、さらに心理的発達を促すための社会化、基礎服従訓練も必要です。

維持期(成犬)

成犬になったときの期待(理想)体重の約90%に体重が達すると、成長期がほぼ終了して維持期に移行します。その時期は犬種(体型)によって異なります。小型犬種では1年未満で維持期に移行しますが、大型犬種では1年半を超えてやっと維持期に移行します。維持期は成長期ほど濃厚な栄養は必要ありません。維持期の食事は、その犬の最適体重と体調を維持させることがポイントです。

成犬への食事の与え方は二つの方法があります。自由採食法と定時・定量法です。一般的には後者が多いようです。過食にならない程度に食べるようなら自由採食法も可能といわれています。自由採食法は手間がかからないところが利点です。しかし、犬の摂取量が不明で、何らかの病気で食欲がなくても気づかないことがあります。

食事量には、個体差、環境(温度、ストレス等)、運動量、年齢、健康状態が関係します。例えば、気温が25℃を超えたときは、1℃上昇するごとに食事量は1~1.5%減になりますし、8℃以下の寒さだと1℃低下するごとに約3.5%増が必要となります。運動量によっても食事量は異なります。それほど運動しない個体では20%減の食事量となります。

成長期用フードを維持期に無制限に与えてはいけません。これらのフードはカロリーが高く、蛋白質・ミネラルも多く入っています。長期間与え続けると、腎臓に負担を与え、ついには腎不全となることも少なくありません。きちんと管理された高品質の食事を与えなければなりません。なお、フードの変さらには数日以上かけることを忘れないでください。突然の変更で体調不良となる動物もいます。

40%以上の方は食事とは別におやつを与えているといわれています。おやつは犬との絆を深めるという重要な側面を持っていますし、全面否定することはありません。
エネルギー消費量と与える食事のカロリー総量を考慮して、おやつを与え過ぎないことが大切です。おやつには、良質な総合栄養食と同じ組成で作られている、動物病院が推奨する信頼できるメーカーのものを選びましょう。

老齢期(老犬)

老齢期の食事は基本的には維持期と同じです。しかし、定期的な体重測定と体調チェックで、食事の質と量を考えなければなりません。

老犬の死因の多くは、腫瘍、心不全、腎不全です。毎年1回以上は動物病院で精密検査を受けるようにしましょう。生活習慣病には早期診断と早期介護、有効な栄養管理が必要です。日々の管理は老犬に合った適正体重の維持がポイントです。それには適正な食事と運動が必要です。

老犬のQOL(quality of life)が話題になっています。加齢に伴う体の変化と栄養学的対処法を示します。

老齢期の注意点

  1. 嗜好性が良く、消化率の高い食事を
    嗅覚・味覚などの感覚が鈍ってきます。栄養素の利用も不十分になります。
  2. 蛋白質、リン・ナトリウムは少なめに
    腎機能と心臓血管系が衰えてきます。「蛋白質は少なめに」が基本ですが、高品質、高消化率の蛋白質を含むことが前提です。老犬では必要量を超える蛋白質を処理する能力が低下しています。
  3. ビタミンA、B群、Eを多めに
    消化器系が衰え、代謝系も変化します。特にこれらのビタミンを多めに与えます。
  4. 肥満には高繊維質、低カロリーの食事を
    肥満問題を抱えている老犬も多いようです。肥満は体への負担が大です。適正な体重を維持させることが長生きの秘訣です。
  5. 体重減少には高嗜好性、高カロリーの食事を
    食欲および消化吸収機能の低下で体重が減少する犬もいます。歯が悪いときもあります。この場合は高嗜好性・高カロリーの食事を、それも頻回に分けて与える必要が出てきます。缶詰を利用したり、ドライフードを湿らせたり、温めたりする方法があります。

老犬用フードが市販されています。成分毎の含有量では、蛋白質・脂肪・灰分がやや少なめで、繊維がやや多めです。代謝エネルギー(ME)もやや少なめに設定されています。一方、ビタミンA、Eなどが強化されていることが多いようです。

妊娠期・哺乳期

犬の妊娠・出産・哺乳を経験される方はそれほど多くないかもしれません。雌犬にとって一大イベントですので、この時期の食事についても紹介することにします。

"健康不良状態"の雌犬が妊娠・出産・授乳となった場合、分娩で一挙に体重が減少したり、乳が出なかったり、授乳中に下痢が続いたりします。子犬にも衰弱症候群が見られます(衰弱症候群:やたら鳴いてばかりいる、乳を十分に飲めない、体重が増えない、脱水がみられるなど)。また、母犬と子犬両方に貧血が見られます。繁殖前に過剰に栄養を与える必要はありませんが、普段から食事の質に気をつかい、適正体重を維持させておくことが基本です。また、交配前には、身体検査を受け、必要であれば、駆虫、ワクチン接種を行います。

妊娠期

妊娠期の最初の2/3(つまり妊娠6週くらいまで)は維持期の食事と同様です。
妊娠期の残りの1/3になって維持期の食事を20~30%増しにするか、成長期用の食事を与えるようにします。「妊娠したから胎児の分まで栄養をつけてあげなければ」とすぐに考え、過剰な食事を与えがちです。しかし、胎児は妊娠末期に急激に大きくなるので、妊娠後半から哺乳期にかけての食事が重要なのです。よく間違えるのは、妊娠前半に過剰な食事を与え、哺乳期に食事量が不足することです。

妊娠4週あたりで食事量が少し減ることもありますが、出産までに徐々に増加していきます。妊娠中の雌犬には可溶性炭水化物が必要です。これが少ないと妊娠末期に低血糖を起こし、死産となることがあります。また、母犬の栄養不足は子犬の免疫機能に重大な悪影響を与えます。栄養不足にならないように注意しなければなりません。

哺乳期

哺乳期は母犬が体調を崩さないことが大切です。最も重要なことは新鮮な飲み水を常時準備しておくこと適正な食事です。新生子数に左右されますが(犬種、母犬の性格なども要因になります)、哺乳中の母犬には維持期の2~4倍のエネルギーが必要とされています。一般的には出産後第1週が維持期の1.5倍、第2週が2倍、第3週から離乳までが3倍とされています。当然ながら食事の量も多くなります。子犬1頭当たり25%増が目安です。

多数の子犬に哺乳中の母犬のエネルギー必要量は想像を超えたものがあります。これを完全に満たす十分な栄養素を含む市販フードはほとんどないようです。なんらかのエネルギー補給が必要です。エネルギー不足で体調不良となるようであれば、脂肪含有量を20~30%まで増加させます。ドライフード1カップに大さじ1杯(約15mL)の油脂(ラード、牛脂、植物油など)添加でエネルギー量を補填する方法もあります。ただし、必要以上の油脂の添加は、食物摂取量が減少して栄養素の欠乏となることがあるので要注意です。

妊娠・出産・哺乳期の注意事項

  1. 妊娠前は適性体重を維持させる
  2. 妊娠後半から十分量の食事を
  3. 哺乳期には十分な水分補給と栄養価の高い食事を
  4. 哺乳期は必要な場合は栄養補給を