2017.02.14

シルクロードの果て、黄色の国

イメージ

イメージ

2019年の春、奈良市西ノ京町にある薬師寺慈恩殿に細川護熙元首相によって描かれる障壁画約60面が納められる。その障壁画を制作中の細川氏のスタジオを訪ねた。部屋に入るなりまばゆい黄金色に包まれ圧倒される。ふすま絵と壁画に飾られるフレスコ画は、すべて黄色の地色で描かれ、並べると長さ160mにもなる。

細川氏が説明をしてくださった。
「仏教の西方浄土を黄色で表現しています。黄色は仏教ではお目出たい色なのです。しかし、黄色一色では眩しすぎるので、色を落ち着かせるため何度も黄色を重ね塗りし、その上に肌色を塗っています。この色を定着させるために、礬砂(どうさ)を使用しています。バルテュスが使用していたフレスコの材料がいいと聞き、岩絵の具をイタリアのローマへ買い求めました。トスカーナの土の色です」

細川氏によると、かつて138か国あったというシルクロード。障壁画には様々な国籍の人々が描かれ、天女が舞い、動物たちがいる。人々は雅楽を楽しんでいる。

イメージ

絵に音がある。
細川氏は、当時の正確な雅楽器の持ち方を天理大学雅楽部、そして、雅楽奏者・東儀秀樹氏に確認されたそうだ。
今日まで約3年の歳月をかけ、現在も完成に向け壮大な障壁画の制作は進行中。

障壁画には仏教伝来が描かれている。シルクロードの砂漠を経て、奈良へ伝来した仏教。仏の教えが、シルクロードの終点、ここ奈良で花開いたのはどうしてだろうか。

仏教は、元々宗教ではなく、哲学だったとも言われている。薬師寺の北側にある、鑑真さんが建てた唐招提寺は、言わば日本で一番最初の大学のようなもの。興福寺、薬師寺、大安寺、元興寺、西大寺、東大寺、唐招提寺。別々のことを教える単科大学を7つ造ったようなものだという。医学、法律、土木、建築、科学…それらを外国からとり入れ、日本の生活向上をはかろうと仏教を使った。

イメージ

「お釈迦様に対する信仰、人として歩むべき道を説いたもの、それが仏教、それを学ぶのがお寺」だと、薬師寺の僧侶、大谷徹奘師。
「朝、自分たちの仏様のお経が終わると、今度は毎日、春日大社に遥拝し、さらにお参りして歩きます。法相宗の擁護の神様、私たちを見守っている神様は春日様なんです。春日様に誓いをたて、私たちはずっと修行をするのです」
奈良の寺社を巡ると、東大寺境内には手向山八幡宮があり、薬師寺には休ヶ岡八幡宮、春日大社のお隣には興福寺と、奈良ではお寺と神社がとても近い。

「元々神様と仏様は一緒だったのです。日本は、八百万の神々様がいらっしゃる多神教。仏教も山の神、海の神、水の神、火の神と、すべてに神様が宿るという汎神論的な考え方があります。非常におおらかで、すべてを包み込めるのが仏教なのです」と大谷師。

ところが、明治新政府に出された神仏分離令により神様と仏様が分けられた。奈良にはそれ以前の、神仏習合の形態がうまく残っており、神主さんやお坊さんが集まる会合が度々あるそうだ。

仏教のお寺は本来は“生きる人のための道場”。哲学的な仏法の精神をそのまま残しているのが奈良のお寺。

イメージ

「お釈迦様はお亡くなりになるときに“自分の遺体に使う時間があるならば修行しなさい”と仰っておられる。同僚のお坊さんが亡くなってもお経をあげません」と大谷徹奘師。

仏教には祖先をお祀りする発想は元々無く、祖先をお祀りしていたのは神道だった。
お盆も、お彼岸も元々は神道の祖先のお祀り。外来の宗教に先祖供養をとりいれ、哲学的な教えだけでなく、人の生活、生死にまで及び、広がったのが日本の仏教。
世界に数ある仏教国のなかでも、お寺が葬式や、供養、お墓の管理をしているのは日本だけ。

仏教が葬式まで管理する形で日本中に広まったのは、他者まで弔う日本の文化があったから。仏教が日本の神道の先祖供養を後押したとも言えるし、神様に護られて仏教が花開いたとも言える。

西洋の文化は自然を征服する文化である一方、日本の文化は自然順応、自然調和、自然謳歌。すべてのものに神が宿るという心。八百万の神々を祀る心。敵をも弔う心。感謝の心。

イメージ

年の暮れが迫った12月、薬師寺の守り神、春日大社を訪れた。この日は汗ばむ陽気だったが、春日大社のご神域に入ると空気は澄み、涼しい風に変わった。大地のエネルギーがせり上がり出来たのが、山。生命力を回復させる素晴らしい神様の気がこもるのが、山。春日大社のご神体は、山。

はるか昔、人々が鹿島神宮から御蓋山に神様をお招きしたのは、都を守るためではあったが、山のふもとにお社を築くことによって、この国の自然(神様)を敬い、決して壊すことのないよう、守り継承していくためだったのではないだろうか。

春日大社では二十年ごとに式年造替が行われ、お社の新陳代謝を行い、また新たないのちをつないでいく。この鎮守の森でご神木は天高く、すっと伸びていた。

木は、生きている。人間がかかわっている間はずっと生きている。生きているから長きにわたり寺社が建っている。世界最古の建物、世界最古の建築会社がある。日本最古の書物がある。

「やまとは国のまほろば たたなづく青垣 山ごもれる やまとしうるはし」
大和は国の中でもっともいいところ 重なりあった青い垣根の山 その中に籠る大和は美しい――
古事記でそう歌われている。

千年以上の時を経てなお、その山並みがそこにはあった。仏教の実践と、日本古来の信仰の在り方が残っている、それが「まほろば」の奈良。

各国の文化を取り入れ、組み立て、世界へ売り出していく。それが日本の役割だと思った。

七色の虹は回転すると一色の光になる。日本は日の元である。回転軸がしっかり実践、継承されてこそ、世界を黄金色に照らしていくのではないだろうか、、、

このページのトップへ