2016.06.14

女王様とコーギー

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赤いダブルデッカー、赤いテレフォーンブース、黒いタクシー、そしてフィッシュ&チップス・・・イギリス訪問前の私の中のイギリスのイメージは主にロンドンのものしかなかったが、今回、ロンドンの郊外まで行くと、一面に広がる緑の中、野生のウサギに遭遇し、イギリスの自然に心が安らいだ。

また、私が滞在したB&B(ベッド・アンド・ブレックファースト)という、日本で言うといわゆる民宿のようなスタイルの宿は、明るく優しく素敵なご夫婦がきりもりしていた。撮影が延びに延びてしまい、帰宿が夜中になってしまっても、出発が早朝でも、明るい笑顔で、美味しい食事を用意してくれた。野菜をふんだんに使った愛情のこもったダディ―の手料理に、「フィッシュ&チップスばかりじゃないんだ。」と舌鼓を打った。

どこへ行っても家の庭をうめつくすように咲いている花々にも感心した。あるイギリス人に「なぜガーデニングをするのか。」と問うてみると、「自然というものは神が与えてくれたもの。自然と接することによって心も豊かになるのよ。」という答えが返ってきた。私も花を育ててみようと、触発された。未だイングリッシュガーデンには及ばず、花瓶に生けることで精一杯だけれど。

そして、イギリス人は自然や花のみならず、犬好きな人が多い。
と、書いても実際は猫好きなイギリス人もいるだろうが、女王陛下を筆頭に犬好きは多いと思う。

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イギリスのウェールズ地方で、イギリスならではのドッグショーに初めて立ち寄った。私が訪れたのは西イングランドドッグショー。ダルメシアン、プードル、立ち上がると2メートル近くになるピレネー山脈のように白いピレネーマウンテンドッグ、ほとんど毛の塊のようなモップのような犬、何となく「部長!」と呼びたくなるような風貌のブルドッグたち、チワワやポメラニアンなどの室内犬、牧畜犬や、警察犬のドーベルマンなど、ありとあらゆる犬が、犬種別に集っていた。柵の中で審査員の前を軽快に駆けるご主人様と犬たち。プロの美容師さん顔負けのメイクボックス持参の飼い主によってヘアカットされるプードル。我が子が一番!という人々の愛犬熱が伝わってきた。

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イギリスでは、毎月一回は国内のどこかで定期的にドッグショーが催されている。
ドッグショーとは、見た目の美しさを競うだけでなく、犬の健康状態、全体のバランス、マナー、犬種の特色が満たされているか、犬種標準(スタンダード)にどれだけ近いかも審査対象になっているようだ。

美しいコーギー犬を連れている女性を見かけたのでお話を伺うと、彼女のコーギーはちょっとスペシャルだった。なんと、エリザベス女王のコーギーと兄弟にあたるコーギーだったのだ。彼女のコーギーとエリザベス女王のコーギーの間に生まれた仔犬の一頭なのである。

さらに女性は、女王と一緒に犬の散歩もしたことがあるという。散歩をしているときの女王は、ウィットに富んでよく笑い、自然体でとてもいい方だったと語って下さった。

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コーギーの毛を撫でさせてもらうと毛はふさふさで、ピンと立った耳、知的な瞳、柴犬にも似た精悍な狐顔だが、体はふわっとした毛並みの短足胴長。何とも言えないアンバランスさに愛嬌がある。
実は、ウェルシュ・コーギーは2種いる。3000年以上前にカーディガンにいたウェルシュ・コーギー・カーディガン。約1000年前にペンブロークシャーにいたウェルシュ・コーギー・ペンブローク。英国王室では代々ウェルシュ・コーギー・ペンブロークが飼われてきており、女王陛下はウェルシュ・コーギーのブリーダーでもある。
カーディガンは、中央ヨーロッパから移住したケルト民族によってウェールズ地方に持ち込まれたといわれているが、ペンブロークは、北欧の海賊が連れてきたとか、フラマン人の職人が連れてきたなど説は様々。交配を重ね、カーディガンもペンブロークも見た目に違いは感じないが、どちらかといえばカーディガンのほうが耳が大きく尻尾も長いだろうか。性格はペンブロークのほうが落ち着きがなく、興奮しやすいとか。運動量も相当なものだろう。お散歩が大変そう。

さて、尻尾の無いコーギーのイメージが強いが、なぜコーギーの尻尾を切るようになったのだろうか。元々、牧畜犬として動物を追いかける役目だったウェルシュ・コーギーは、ふさふさの長い尾が牛に踏まれ邪魔になるからと、生まれてすぐに尻尾を切られるようになった。その慣習が残り、尻尾のないぷりっと丸いお尻のコーギーが一般的なイメージに定着したのだ。
しかし、断尾行為が虐待とみなされたイギリスでは、約20年前に獣医師以外の断尾を禁じた断尾禁止法が実施され、今では尻尾のあるコーギーの方が多いという。
ところが、尻尾のあるコーギーは人気が無く、ブリーダーは徐々にコーギーの繁殖を行わなくなっており、現在、ウェルシュ・コーギー・ペンブロークは絶滅種に該当するほど減っていることを、品種の認定等を行うザ・ケネルクラブが発表。尻尾の無いコーギーこそがコーギーの魅力だと思う人が多いのだろうか。

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そうはいっても、仔犬にとって尻尾の切断が痛くないはずがない。生まれてすぐの仔犬には麻酔も使えないはず。何より、尻尾は感情を表すところ。嬉しいのか、悲しいのかわからないし、犬も表現方法に不自由しているのではないか。ふさふさの長い尾がコーギーの魅力でもあり、尾がある方が美しいと私は思うのだが。

これまで30頭あまりのコーギーを飼ってきた女王陛下の傍には、現在、ホリーとウィローというコーギーがいる。エリザベス女王とコーギーの関係は80年以上、コーギーの血統は14代続いている。
エリザベス女王がまだ少女だったころ、妹のマーガレット王女と、ある貴族のお宅を訪問し、そこで飼われていたコーギーが2人の気に入ったことが、コーギーと女王の出逢いだった。コーギーへの想いがつのるエリザベス王女。その想いにこたえるようにお父様のジョージ6世(当時はヨーク公爵)が、エリザベス王女18歳の誕生日プレゼントとして王女にコーギーを贈ったのだ。

活発で明るく、判断力に優れ、いざとなったら勇敢なコーギーは、明るく活動的な女王陛下と相性がいいのかもしれない。
多忙な女王陛下にとって愛犬と過ごす時間は、心からくつろげる大切な時間だろう。

故ダイアナ元皇太子妃が “as moving carpet(まるで、動くじゅうたん)”と言ったほど、多いときでは十数頭ものコーギーが女王陛下の足元に群がっていた。
しかし、エリザベス女王は、現在飼っているコーギー以後、犬は飼わない、繁殖もしないと発表。一体どんな想いで決断されたのだろう。女王陛下とウェルシュ・コーギー・ペンブロークの絆が深いからこその選択だろうか。

女王陛下と犬の絆は永遠だと思うけれど。

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