2016.05.10

春を呼ぶ野菜~新ばれいしょ篇

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鹿児島県に桜の開花宣言が出された3月下旬、新ばれいしょの収穫体験に長島町を訪れた。出水駅に到着すると「鶴」の像が出迎えてくれた。そうだ、ここは鶴の北帰行を見ることができる場所としても有名だ。

黒之瀬戸大橋を渡りうっすら桜色に染まる山道を行くと、美しい東シナ海を眼下に望む、いくつもの段々畑が現れた。石を組んで作られた段々畑の中には赤い土が広がっている。北海道の人が見ると「家庭菜園かな?」と思うほど可愛らしい畑が、所狭しと、けれども無駄なく広がっている。

本当はばれいしょを掘り終えている時期なのだが、ぜひ収穫を体験したいというわがままな私の要望により、生産者の宮路幸雄さんが一部掘らずにとっておいて下さった。

私は作業着に長靴という格好になり、少し緊張しながら畑の赤土に足を踏み入れる。耕運機に触れる事すら初めての経験。ばれいしょたちを潰してしまうのではないかと恐る恐る耕運機を発進させる。当然(本当に当然ながら)、ばれいしょは傷付くことなく、赤土の上に次から次へと元気よく飛び出し、芋掘りがこんなに愉しいものかと感動する。

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この”耕運機で芋を掘る”ということも、北海道の人が見たら「うそ!耕運機だなんて」と思うほど、可愛らしい光景だという。広大な北海道の畑では、巨大なトラクターによって大量に掘り出されているばれいしょ。トラクターがゾウなら、耕運機はネズミのように小さな存在かもしれない。先祖代々こうして段々畑を上手に活用し、この土地と、ばれいしょの栽培が守られてきたのだと感じる。

ここには、遊んでいる畑が全く無い。
秋に植えたばれいしょは12月から2月に収穫し、年明けに植えたものは4月から5月に収穫。5月には同じ畑に今度はさつまいもを植える。休み無く畑を使い、赤土の畑の中で芋を貯蔵しながら、宮路さんはばれいしょとさつまいもの輪作体系で活路を見いだしている。

因みに、鹿児島県には約1万5千ヘクタールにも及ぶさつまいも畑があり、その生産量は全国一である。そのうちの40%が焼酎用、40%がでん粉原料用(片栗粉はばれいしょでん粉)、20%が青果用(紅さつま、安納芋、紅はるかなど)・加工用(焼き芋、チップスなど)である。鹿児島で栽培されているさつまいもの品種は55種類にも上る。

土の中で育つさつまいもは風害にも強い。台風の影響を受けずにすくすく育ち、鹿児島はさつまいもの生産量日本一になった。その芋は、私たち人間のみならず、動物たちの命も育んでいる。鹿児島のお茶やさつまいもで育つ豚も鹿児島のブランドとなっている。

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実は、鹿児島の種ばれいしょは北海道などから購入している。鹿児島では種ばれいしょの生産は難しいそうだ。元々、ばれいしょは冷涼地であるアンデス地方原産。暑い鹿児島では種子が育ちにくい。その為、北海道などのばれいしょ農家に委託採種事業として契約栽培している。鹿児島に種ばれいしょを出荷する際は、農林水産省の種苗検査官が病気の有無を検査し出荷されている。鹿児島で最も栽培されているニシユタカという品種も同様。10アール当たりに種ばれいしょを200キログラム植える。収穫時は約10倍の2000キログラムになる。

小さな種を蒔けない。考えてみたら、こんな野菜は他に無い。我々消費者が海外の生ばれいしょを口にすることは絶対に無い。それは、世界でも恐れられているジャガイモシストセンチュウという特殊病害虫が日本に蔓延しないよう、ばれいしょは厳格な検査を通過して販売されているから。一度発生したら、根絶が極めて厳しい脅威の害虫だ。

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私が掘り出したばれいしょの品種は、平成21年に北海道で開発されたピルカという品種だった。母「メイホウ」、父「十勝こがね」の間に生まれた「ピルカ」は、男爵や、メークインが開発されて100年が経っていることに比べると、まだこれからの品種。ピルカは芽が浅く、肌が美しく、デコボコしていないので、皮が剥きやすい。まな板で料理がしやすいという長所がある。そして、鉄分やミネラルが多く含まれる粘土質の赤土で育つためか、粘り気も強く、煮崩れしにくく、しっとりしていて本当に美味しい。

おもしろいのは、北海道で育ったピルカと鹿児島で育つピルカは形が違うこと。北海道産ピルカは長卵形に対し、鹿児島産ピルカはころっと丸形になる。

食べ物を育てている土。私たちはその土の栄養もいただいているのだと改めて気付かされる。だから、清らかな土を育てることが大切なのだろう。できるだけ化学物質に汚染されていない土、必要以上の肥料に甘やかされていない土。できるだけ自然であること。それが一番強い。適地適作。この「赤土」という鹿児島ならではの土壌が見事なブランドになっている。

冬を越えて育つ赤土ばれいしょは、全国でどこよりも早く県外の青果市場に出荷され、春の訪れを告げる。私は2016年2月12日に移転されたばかりの福岡大同青果市場(中央卸売市場)を訪ねた。

全国から市場に集った青果物。至る所から春の気配が感じられる。私は鹿児島野菜応援団として鹿児島の新ばれいしょ、さつまいも、デコポン、金柑、春キャベツ、大根、そらまめも多くの買参人に試食してもらった。

これまで、東京、大阪と青果市場を見てきたが、競りが5カ所同時に行われているのを目にしたのはここが初めてだった。夜明け前に「チリンチリンチリンチリン!」と場内いっぱいに鳴り響く鐘の音。一斉に上がるいくつもの手。飛び交うのは目が覚めるほど威勢のいい掛け声。

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大手量販店の販売シェアが高まり、大量に仕入れ、大量に売る必要から、5年前に農林水産省の卸売市場法で相対取引が認められた。競消費者の購入先が八百屋から大型量販店に移行している現状を踏まえ相対取引が増えている。ある程度固定されたスーパー・量販店に商品を販売する場合、相場に左右されにくく、安定的な取引ができる相対取引なら事前に商品を確保しやすい。競りの利点は、地域性・公開性と需要供給のバランスにある。八百屋が多かった昔は多くの競り人により活気があり産地側のメリットも多かったが、量販店の台頭する現状では全国チェーン店が溢れ、地域性が失われつつあり、競りの機能は薄れてきている。競りを行う市場が減少している中、福岡の青果市場で見た威勢のいい競り販売は、日本の中でも珍しい。

「日本の本物の野菜を食べてもらいたい!」

福岡の人はもちろん、これからは世界に向けて、もっともっと日本の美味しく安全な野菜を届けたいという、福岡大同青果市場株式会社大野憲俊社長(71歳)の青年のような熱い意気込みに私も元気をもらった。

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後日、我が家にも赤土を纏った新ばれいしょが箱いっぱいに届いた。土のいい香り!自分で堀り上げたからより嬉しい。今夜は肉じゃが、ポテトサラダ、野菜スープ、素揚げ、それともカレーにしようかと、献立を考えるのもより愉しい。自分で掘ってはじめて気付いた、日本の野菜の生命力をいただけるありがたさ。その上、旬のものを旬のうちにいただけるということは、実は、ものすごく幸福なことなのだと。「ああ、おいしい!」赤土ばれいしょを囓るたび、私の心も胃袋も、春めいた心地良さに満たされていった。

この度、4月14日に発生した「平成28年熊本地震」により、九州に於いて被災された多くの方々へのお見舞と、亡くなられた方々へのご冥福をお祈り致します。一日も早い復興を心よりお祈り申し上げます。

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