2016.04.12

天に伸びる豆-そらまめ

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「そうだ、鹿児島の野菜に会いに行こう!」

もう、暦の上ではすっかり春なのだが、日本列島はまだ寒気におおわれている3月、私は鹿児島県の南に位置する指宿(いぶすき)を訪ねた。

「指宿と言えば砂むし温泉」

聞いていたとおり、指宿の町には砂むし温泉の標識が溢れていた。「東洋のハワイ指宿」、「温泉の黄ばみ落しあります」などと、少し色あせた昭和の香り漂う看板もあり、興味を惹かれる。

指宿のトンネルを抜けると、その左側、丸いすり鉢状の大地の中に民家が群集している。そう、鹿児島の人々は巨大なカルデラの中で、まさしく火山と共に暮している。巨大なお椀のようなカルデラの中に建並ぶ日本家屋はとても小さく見え、その小ささ故か人々の暮しに愛らしさすら感じる。

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カルデラを通過して間もなく、前方に東シナ海が広がり、大地から湯煙がもくもく上がっていた。向かいには薩摩富士と呼ばれる開聞岳、その手前には、不思議な形の竹山が一際目を惹く。シラス台地から巨大なタケノコがにょっきと生えているように見える竹山は、隆起した火山の頂上部らしい。地元住人にとっては、スヌーピーが仰向けで寝そべっているように見えるという。なるほど、そう見えなくもない。スヌーピーの竹山には天狗伝説が残っており、特別天然記念物のソテツ自生地があり、山上には祠も祀られているそうだ。神社のある場所は昔からエネルギーのある場所だと聞いた。人々はこの地で自然の驚異を感じ、神聖な場所として土地を守ってきたにちがいない。

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竹山を通り過ぎ、ついに現れたのが青々と茂る露地栽培のそらまめ畑!

この日はあいにくの雨だったが、有り難いことに、畑に到着すると同時に雨は弱まり、そらまめ畑のすぐ傍で、生産者の西山茂さんが傘をさし、明るい笑顔で私を出迎えて下さった。

整然と並ぶそらまめの姿は、実に美しく気持ちが良い。ここでは、100m続くそらまめの茎の列が、36列もあるという。

東京育ちの私にとって、そらまめといえば“夏の野菜”という印象だったから、3月のこの時期にすくすく育っていることが信じられない。
指宿地区では、そらまめは9月下旬に植え付け、12月から収穫されるという。
寒い時期にも食べられる鹿児島のそらまめ!
春の息吹が一番乗りで全国に届けられている。

種子島や鹿児島の北に位置する出水地区でもそらまめの生産が行われ、5月まで収穫が続く。
そらまめの生産量が日本一の鹿児島県では、南から北へとリレー出荷が行われるのだ。
そのまま6月は茨城、8月は青森と北上していくそらまめ。
日本全体でリレーを繋いでいる。

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今冬、指宿のそらまめ畑は100年ぶりの寒害に見舞われていた。1月24、25日に鹿児島の大地を覆った大雪。そらまめの被害総額は7億6千万円、スナップエンドウは7億4千万円。普段雪が降らない南国での大打撃だった。私を迎えてくれたのは、雪害に耐えたそらまめたちなのだ。

開聞岳、桜島、竹山と火山に囲まれたそらまめ畑。そらまめが好むのは、水はけの良い火山灰土壌のシラス台地と、海風が当たる温暖な気候。水分を多く含みべちゃべちゃした土壌では、豆もべちゃべちゃになってしまう。

雪害に遭ったそらまめは黒く変色したものが多く、売り物にならなかった。黒ずんだそらまめを私は以前試食させてもらったが、味は充分美味しかったし、本当に勿体ないと思った。

私もそらまめの収穫体験をさせてもらった。大きな莢を手に軽く握り、くるっと捻るだけで、枝からぽろりと外れる。くるっ、ぽんっ、くるっ、ぽんっ。一莢一莢こうして丁寧に手で収穫しているのだと知り、手のひらに収まったそらまめに愛着が湧く。

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「どうぞ生で食べてみてください!」西山さんが私に勧めてくれた。莢を開くと、ふわふわの綿毛の布団の中でじっくりと育てられているそらまめが姿を現し、なんとも愛らしい。そらまめを生で丸かじりするのは生まれてはじめての経験・・・。ぱくっ!と口に含むと・・・ほんのり皮の苦みが、次に豆そのものの甘さが広がった。なんといってもその瑞々しさに驚く。「美味しい!」3つ目、4つ目とそらまめの丸かじりが止まらなくなっていた。

「僕は、そらまめは毎日食べても飽きないんです。嫁さんから、“いい加減にしなさい”と止められるくらいです。毎日、塩ゆでにしたり、天ぷらにしたり。あと、そらまめの白い花は、商品として出荷できないのですが、天ぷらにしてもこれもまた美味しいんです!」

現在57歳の西山さん。そらまめ一筋約25年。そらまめに飽きたことは一度も無いと仰る。
それどころか、やめられない、とまらないそらまめなのである。

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「そらまめの栽培で、何が一番楽しいかって、それは、何と言っても、たわわに実った莢がずらーっと横一列に並んだ姿を見るとき!それが、この上ない喜びであり楽しみです。」

本当に嬉しそうに目を輝かせ、一直線に伸びたそらまめを愛でながら、熱く語る。なんて深いそらまめ愛!

別れ際、西山さんが私に問いかけた。「どうして“そらまめ”というかご存じですか?」そういえば・・・!何故そらまめと呼ぶのだろう。

「そらまめはね、上へ上へと空に向かって成長するんですよ。天を向いて枝から生えていく豆は、豆の中でもそらまめだけなんです。」 寒害で心が折れてらっしゃると思ったけれど、再び立ち上がる!と、めげていない。そらまめと一緒に上を向いている。4月には指宿の特産であるオクラの植え付けをされるということで、目を輝かせていた。農家の“きばっど精神”はまっこと強い!

「額に汗し、自分の手で愛情をかけてこそ得られる喜びがある。」そらまめと西山さんが教えてくれた。そうだ、そらまめに込められた鹿児島の熱い息吹を、私はこれから伝えていこう!

気付くと雨脚は再び強まっていた。もぎたてのそらまめをポッケに入れ、空高く傘を開く。
私は、畑を見守る竹山に頭を垂れ、そらまめ畑を後にした。

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