2014.06.10

伊集院静さんインタビュー

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映像化で話題を呼んだ『いねむり先生』などの小説をはじめ、最新作『許す力』がベストセラーとなった「大人の流儀」シリーズほか、心に響く数々の作品を世に送り出してきた伊集院静さん。
現在は仙台にご自宅をかまえ、2匹のミニチュアダックスと暮らす愛犬家でもあります。 そんな伊集院さんに人と動物の縁、そして絆について伺いました。

——犬の登場する著作もある伊集院さん。 (愛犬と暮らす日常を綴った「きみとあるけば」、愛犬が主人公の絵本「ノボッチと木」など)作品のモデルとなった犬はどんな子達なんですか。

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伊集院 どちらもミニチュアダックスのオスで、15歳と13歳。お兄ちゃんの亜以須(あいす)は、家内が猫を飼おうとペットショップへ行ったときに「出会ってしまった」と(笑)。この犬を彼女があまりにも溺愛するので、ゆくゆく大変なことになるぞと思い、僕がもう一匹飼うよう勧めました。それが弟のノボル。ノボと呼んでいます。

——亜以須くんにノボくん。個性的な名前ですね。

伊集院 私はよくお酒を飲むんですが、そのときいつも「氷を持ってきて」と言う。それで直感的に「アイスなら覚えやすいかな」と思いつきました。でも、そんなことは人には言えませんから(笑)、中国の辞典を調べたところ、神に仕え、真理のみを信じて生きていく者という意味があるということで、じゃあこれにしようと。
ノボのほうは、当時、俳人の正岡子規(まさおかしき)を主人公にした物語を書こうと思っていて、彼の幼い頃の名前が昇(のぼる)だった。小説は完成するかどうかわからないけれども、まずは犬の名前にいただいておこうということで、つけました。小説は昨年、『ノボさん』という題で発表しました。

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——東京や海外など、仕事で忙しく行き来されているそうですが、彼らと過ごされるときはどんなふうですか?

伊集院 彼らは普段、うちにお手伝いに来てくださっている方の犬と一緒に、3匹で過ごしています。亜以須はやはり家内になついていますが、ノボは、私が家にいるときはずっと私の傍にいますね。私が乗ったタクシーの音が聞こえると、ノボは部屋の中でウォウォウォウォーン!と遠吠えをするらしい。それで近所の人も「あ、先生が帰ってきたんだな」と気づくそうです。

——ご主人さまを待っていたんですね。

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伊集院 そうなのかどうかわかりませんが、私はよく、犬に話しかけるんですよ。小説を書く合間に、傍にいるノボに「どうもうまくいかないな。俺の才能のせいなのか、それとも作品の構成が悪いのか、お前、どっちだと思う?」とかね。普段、人には話さないようなことも、犬にはよく話す。彼はじっと聞いています。こういうときの犬の表情はいいですね。どこか哲学的というか、「おお、考えているんだな」という感じがして。
僕は芸をするとか、かわいい格好をしているということより、こうした犬らしい犬の様子が好きです。でも、普段のノボは本当に食い意地が張っていて、食べ物を見ると辺り構わず突っ込んでいく(笑)。あんなに食べることばかり考えていられるなんて、まったく、尊敬に値しますね。

——(笑)もともと、動物には親しみが?

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伊集院 父親が動物好きだったこともあって、小さい頃から家には常に生き物がいました。犬も、6人の子どもたちがそれぞれ一匹ずつくらいの割当で面倒を見ていたんです。僕が飼っていたのは、雑種のシロという犬。中学生の頃、野球選手になろうと思って毎朝6時くらいから7キロの道のりを走っていたんですが、それにシロがついてくる。そのあと、沖を眺めながら「俺は野球選手になれるかな。どう思う?」と訊ねたりして……思えば、あの頃から犬と会話をしていたんですね。
その後、シロは亡くなり、父と一緒に埋めに行ったんです。真っ暗な中、穴を掘って、最後に土をかける前、父がしばらく手を止めてシロを見つめていたんです。そのとき、父のことを「ああ、この人の慈愛を見習いたい」と思ったのを、今でもよく覚えています。

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——伊集院さんが犬たちとの絆を感じる瞬間は?

伊集院 長い年月を一緒に過ごしてきましたからね。東日本大震災のときも、地震が来るたびに怯える彼らをよく抱いてやりました。
2匹とも体調管理はしっかりしていますが、最近は耳が遠くなったり、病気をしたり。子どもの頃からこれまで我々にたくさんの喜びを与えてくれたのに、この子たちは人間の何倍も早く年を取っていくんだなぁと思うと、切なくなりますね。

——別れは本当につらいですよね。私も経験があります。

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伊集院 それを言わないでくれるかな(苦笑)。でもね、犬や猫がどうしてこんなに人間の感情を揺さぶるのかというと、きっと犬や猫も人間に心を揺さぶられているから。人間が彼らに癒されるのと同時に、彼らもまた人から安堵をもらっているんだと思います。長い歴史の中で、僕らはそうやって一緒に生きてきた。人間も動物も、生きていると必ず悲しみに遭遇し、そこへ寄り添うということを本能的にする生き物なんです。

——ともに生きるパートナーとして。

伊集院 僕は、小説というものにもそういう力があると思っています。悲しむ気持ちを消すことはできないけれど、それに寄り添うことはできる。だから、動物たちを愛するように、小説にも親しんでもらいたいですね。

——ありがとうございました。

おまけ

話し手/伊集院静
いじゅういん・しずか


1950年山口県防府市生まれ。立教大学文学部卒。81年、短篇小説「皐月」を発表し作家デビュー。92年に『受け月』で直木賞を受賞する。最新作は自伝的長篇小説『愚者よ、お前がいなくなって淋しくてたまらない』。伊達歩の筆名で、作詞家としても知られる。

聞き手/坂本三佳
さかもと・みか


俳優、タレント。1980年生まれ。2000年より「日立 世界・ふしぎ発見!」ミステリーハンターを務める。2010年、KSグループ、日本カルミック株式会社のイメージガールに就任。

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