2014.03.11

コウモリ寺-ゴッザム・シティー

イメージ

バンコクより西に約100キロ、ラチャブリー県にワット・カオチョンプランという寺院がある。
別名「ワット・カンカオ」。
ワットはタイ語でお寺、カンカオはコウモリ。
つまり「コウモリ寺」。ここは、ガイドブックでもあまり紹介はされていない穴場的な観光名所だ。

イメージ

看板にはこう標されている。

The attractive tourist spot nearby is "Bat Cave" where over 100 million bats dwell and leave around 6pm every day for hunting. When they are flying, they look like the line of smoke.
It is very exciting and impressive.

カオチョンプランの石灰岩洞窟から、ヒダクチオヒキコウモリが一斉に飛び出し、その数、over 100 million bats!?一億匹のコウモリ!?そのような気配はまったく感じさせない、穏やかな空き地のような場所に私は居た。

イメージ

芝生の上では野良犬が徘徊し、点々と建ち並ぶ出店では食べ物やぬいぐるみが売られている。コウモリのぬいぐるみ、キーホルダー、そしてコウモリカチューシャ。さらに街頭にもコウモリのデザインが施され、空き地の奥には巨大なコウモリオブジェまである。

ゴッサム・シティならぬカオチョンプランのダークヒーロー。

周辺ではゴザを敷いて場所を確保し、まるでピクニックでもしているかのように、のんびりとコウモリの登場を待ち構える人々がいる。
すると何台かの観光バスが到着し、客人が増えてきた。さらに、数台のスクールバスからオレンジ色の袈裟を纏った僧侶達までお出ましだ。 コウモリが現れるであろう小山の上方に黄金の仏塔が建っている。あの辺りから飛んでくるのだろうかと、胸が高鳴ってきた。

イメージ

どれほど待っただろう。

空が茜色に暮れ始めた頃、なにやら上空が怪しい気配に満ちてきた。
小さな鷹が飛行している。そのまま注意深く山の中腹を見上げていると、パタパタパタと数匹のコウモリが姿を現し始めた。
あっという間にコウモリは何十、何百、何千頭と帯状に連なり、途切れることなく出てくる、出てくる。

コウモリが飛んでいるというより、真っ黒な手裏剣、、、いやもっとロマンチックに例えるなら、空に放たれる黒い星々が同じ方向に流れている、黒い天の川。

一頭一頭のコウモリが連なり、何千何万ものかたまりになる、長く巨大な一頭の生き物のように見えてくる。黒煙のように龍が空を駆け抜け飛翔していく様相から「ドラゴンフライ(龍の舞)」とも呼ばれている。

イメージ

ところでコウモリは一羽、二羽… ではなく、一頭、二頭だ。実はコウモリは鳥類ではなく"鳥のように自由に飛べる唯一の哺乳類"なのだそうだ。哺乳類では、他にもムササビ、モモンガなどが飛膜を広げて滑空するが、鳥類に匹敵するほどの完全な飛行能力を有するのは哺乳類全体でもコウモリのみであるようだ。

コウモリは逆さまにぶら下がった夜行性で、血を吸う吸血コウモリも存在する。得体の知れない不思議な生き物だ。

それにしても、一頭二頭と数え方を知ったところで、あまりの量と速さに目が追いつかない。洞窟の出口から飛び出す数は一秒あたり最大約2000頭。それが30~40分続いて合計300万頭にまで膨れ上がるのは圧巻だ。

袈裟を身に纏った僧侶達もデジタルカメラや携帯電話を懐から取り出し上空を写しているのを見て、「お坊さんも携帯を持つんだ…」と、そんなところに着目してしまった。

イメージ

さて、なぜこのコウモリ達は、毎日夕刻一斉に同じ方向へ飛んでいくのだろう。

夜に活動を始める夜行性のコウモリは日が暮れてから食事に出かけるのだ。町の灯りに集う虫達を食べているという。しかし、この洞窟から出る瞬間が命懸けだと。鷹が飛行し、蛇が洞窟の出口で待ち構え、最初に出てきたコウモリをパクッと食べてしまう。先頭にたって飛び立つコウモリがみんなの犠牲になるのだ。

夕食を探しにウキウキと勇んで飛び立つだろうに、家を出た瞬間に捕らえられてしまうなんて、毎回肝試しのようなディナーハント。あまりの空腹に早まったコウモリが犠牲になる定めなのか。それともその日の先頭を決めるため、じゃん拳や多数決でコウモリがミーティングしてたりして。

イメージ

運よく捕らえられずに飛び立てたコウモリたちは夜な夜な大量の虫を食べる。コウモリの数からざっと計算して総量およそ40トンもの虫達が町のどこかでコウモリのお腹に入っている。我々が眠っている間にも弱肉強食のドラマが町中で繰り広げられている。

私は是非ともコウモリの住処である鍾乳洞内部を見てみたいと申し出たが、「いやいや坂本さん、それはお勧めできません。大量のゴキブリを踏んづけて歩くことになっても良いのならどうぞ。わたしは遠慮させていただきます。」と、ガイドさんに断られた。どうやら、コウモリの糞を餌にしているゴキブリがわんさと洞窟内を這っているらしい。

イメージ

ブラジルの洞窟探検でコウモリの糞が化石になり、歩く度に砂埃のように糞が舞い、息が詰まりそうな体験をしたことを思い出した。

懐中電灯を照らすと、ぎっしりと天井を埋め尽くし逆さまにぶらさがりながら群がっていた大量のコウモリの群れ、、、。「わたしも遠慮させていただきます。」と、断念。

完全に日が暮れると、カオチョンプランの山が緑のライトで飾られていた。あまり観光地化せず、自然のままが良いのでは?とも思ったけれど、派手な装飾を好むのがタイらしいといえばタイらしい。

カオチョンプランの山の傍では砂利の採掘がおこなわれているという。いずれ山ごと消えてしまう勢いだそうだ。どうか、コウモリの住処を奪わないで、そっと見守ってあげてほしい。

イメージ

巨大なコロニーはコウモリやゴキブリのシェアハウス。みんなひしめき合いながら必死で集団生活しているのだから。
人間にはわからないドラマがあり、コウモリが何トンもの昆虫を一晩で消費することによって、必要以上に虫達を増やさず生態系のバランスが保たれているのかもしれない。

宿の自室に戻ると靴が糞と泥まみれになっていることに気がついた。私も無我夢中でカメラのファインダーを覗きコウモリを撮影していたんだ。

長いこと上空を見つめていたせいか寝違えたように首が痛くなっていた。そして、その夜は夢の中でもダークヒーローにうなされた。そうとは知らず、コウモリは今宵もディナーを楽しんでいるのだろう。

なんとも暑いタイの夜だった。

このページのトップへ