2013.10.08

クロアチア-アドリア海の宝石

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コバルトブルーのアドリア海に1000以上もの島を持つクロアチア。島々を上空から見下ろすと可愛らしいハート型の島があったり、「あれは魚に見えるね!」「あれはアヒルじゃない?」と様々な形の島を発見しては胸が躍った。

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クロアチアの海岸線は夏のバカンス地として観光客に人気が最近高まっていると言う。 古代ローマ時代から栄えた街ザダルでは「アドリア海の宝石」と呼ばれるあのお魚にも巡り会うことができた。

そう、マグロ。

常に温かいアドリア海はマグロの養殖に適していて、ここで育てられたマグロの多くは日本へ輸出されているのだ。

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フェリーでザダルから向かいの島へ渡り上陸後は養殖マグロに出会うため小型のボートに乗り込んだ。
しばらくすると方々に見えてきた丸い大きな生け簀。

「あの中にマグロがいるんだ」と期待して近づいてみても円のなかには何の気配も感じない。「本当にこの中にマグロはいるの??」と疑っていると、餌である大量のイワシが生け簀に投げ込まれた。すると、渦巻き状にざわつき始める海面。私の目には見えていなかった海中では、なんと1000匹ものクロマグロが時速60キロでぐるぐるとノンストップで泳いでいたのだ。

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海中を覗き込んでよーく見てみると確かにものすごい速さでシルバーに輝く巨体が光のごとく私の目の前を通過する。その大きさ!その迫力!でも本当に驚くのはここからだった。なんとその40~50kgはあろうクロマグロを海の男たちは素手で捕まえるというのだ。

海中で泳いでいるクロマグロを背中から抱きかかえ、素早く船に積んで冷凍するという勇ましさ。マグロの鮮度を保つためには暴れさせたり、ストレスを与えてはいけない。「MAX30秒だ」という秒殺。部分恒温動物のマグロは暴れると体温が上昇し、自らの血で身を焦がしてしまうそうだ。

アドリア海の宝石なるクロマグロは一体数十万円にも及ぶため、傷がつかないよう素手で捕まえるようになったという。それにしてもなんて勇ましく力強い、まさかの「カウボーイ」ならぬ「ツナボーイ」たち。

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冒頭にハートの形の島があることを書いたが、私が出会ったクロアチアの人々はあたたかいハートの持ち主が多かった。そしてどこかロマンチックな人が多いようにも感じた。
そのロマンチックさの象徴的なものがリツィタルと呼ばれる無形文化遺産のお菓子。
男性が女性に愛の告白をする際に渡すハート形のリツィタルには鏡が付いていて、渡された女性の顔が映るようになっている。「そこに映っているあなたが私の心にいつもいますよ」ということを意味するらしい。
私にもいつの日かそんなリツィタルを授けてくれる王子様が現れないものかしら。

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さて、赤いハートが溢れるならば、ザダルの広大な丘陵地帯には赤いさくらんぼがたわわに実っていた。
「ここに来たなら、あなたはもうチェリー食べ放題だよ」と冗談混じりに案内してくれた農場主。どれどれ、一粒口に含むと、あら酸っぱい。
なるほど、ここのさくらんぼはお菓子やお酒向きなんだ。
春先には桜の花が咲き、広い大地一面に舞う花吹雪はさぞかしきれいなんだろうな。こちらでは花よりだんごで、実のほうが愛でられるのかもしれない。

そしてさらに内陸部に入ると海岸地帯とは異なる美しい景色に魅了される。

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無数の滝で結ばれる16もの湖が段々畑のように並んでいるプリトヴィチェ湖群国立公園は、独立戦争の最中に危機遺産として登録され、プリトヴィチェを愛する人々によって守られたという。
故郷を愛する人々の努力によって危機遺産から解放され今も美しい自然が保たれている。

エメラルドグリーンの宝石のような湖に近づくと、水底に映る魚の影まで、そして泳いでる鴨の足までよく見え、その純度の高い水の透明度には驚いた。
石灰質の岩や石がプリトヴィチェの水を透明にしているというのだ。

白いベールのように流れ落ちる滝が私には上品な貴婦人のように感じられたけれど、冬には冬の荘厳な表情があるようで四季折々の姿をたのしみに毎シーズン来てもいいかなと思う程、野性味溢れる癒しの場所。
お夕飯時にいただいた鱒のグリルも忘れがたい。

一方、ザダルの海岸には、戦争からの復興プロジェクトで造られた「シーオルガン」というものがある。岩壁の下にいくつものパイプが通っていて、波や風が打ち寄せる度に音が鳴る仕組みになっている。そのメロディーは自然によって作曲され、モーターなどの機械は一切使用していない。自然が自然に音楽を形作る。

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世界に二つとないこのシーオルガンを設計したニコラ・バシッチ氏にお話を伺うと、自然とのコミュニケーションを多くの人に楽しんでもらいたいという想いと共に戦争で亡くなった人に祈りを込め、犠牲者の家族が敬虔な気持ちになってくれたらとの願いも込められているという。

最初は、シーオルガンの発案はなかなか理解されず政府からは反対されたそうだ。
けれども、気づくとこの音に引き付けられるように町の人々がこの場所に集まってきて、今では学校帰りの子ども達、仕事帰りの大人達、そして観光客もここに集い、この町の象徴となっている。

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日本を襲った東日本大震災で津波とともに思い出の数々をも流されてしまった人々の心は震災直後よりも時間の経過した"今"のほうがはるかに心の空虚感、寂しさ、哀しみは募るのだという。いつの日か被災地にもシーオルガンのようなものを造ることができたらいいなと私は思った。
自然が奏でるメロディーが、ひとりでも多くの人の心に寄り添い、癒されたならと思う。

映画監督のヒッチ・コックが「世界一美しい」と愛したザダルの夕日は、海も大地も私の肌も地球全体を真っ赤に染上げてしまいそうなほど、強い光を放ち、こわいくらい美しかった。

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新たに欧州連合に加盟したこの国はこれからどんどん変わっていくんだろうな。

それでも素朴なハートの豊かさは変わらずにいてほしいとは私の勝手なお願い。

ザダルの港で、シーオルガンの音色に耳を傾けていたのは人間だけではなかったようで、気づけばベンチの下に身を潜め、自然が奏でるシンフォニーに包まれながら気持ち良さそうに猫のカップルがうたた寝をしていた。

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