2013.07.09

同居人はペンギン

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その町の名は「オアマル」。人口2万人の海に面した港町。ニュージーランド南島クライストチャーチから車でおよそ3時間南下したところにある。19世紀に建てられた美しいビクトリア様式の建造物に使用されているのは、この町特産の"オアマルストーン"と呼ばれる石灰質の白い石。カフェやオフィスビル、教会、観光案内所などにも使用され、街全体がオアマルストーンの白で彩られ美しい。

この町は「ウィスキーやジャズが似合う町だな」とわたしの中で勝手な印象がついているのはなぜだろう。粋で大人な町のオアマル。お昼に食した魚介のクラムチャウダーの濃厚な味わいが忘れがたい。

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レストランを出て町を歩いていると、これまた白いオアマルストーンで作られた大きなペンギンの碑が私を迎えてくれた。

そう、この町にやってきた目的は「人間とペンギンが共に暮らすめずらしい町がある」と聞いたからだった。巨大なペンギン像は、確かにペンギンがこの町に存在するのだと証明してくれているように堂々と建っている。

さて、お洒落なこの町のどこに野生のペンギンが存在しているのだろうと町を散策していると、どこからともなく聞こえる鳴き声。声の出所を探ると、一軒のカフェへたどり着いた。なんとこの店の床下にペンギンが巣を作って暮らしているらしい。その様子を監視するカメラまで店内に設置してある。本当にペンギンはこの町で人間とともに暮らしていた。

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オアマルで見られるペンギンたちは「ブルー・リトル・ペンギン」と「イエロー・アイド・ペンギン」いう2種類。イエロー・アイド・ペンギンは眼と眼の周りが黄色く、ブルー・リトル・ペンギンは羽毛が青く成鳥でも小さくて愛くるしい。

ペンギンたちは繁華街の酒場にも現れるため、店主は床にウィスキーを撒いてペンギンの臭いを消していた。線路脇の倉庫や、オアマルストーンのアトリエの床下、一般のお宅の床下に3~4羽の家族構成で、身を潜めて暮らしている。


しかし日中町で見かけるペンギンたちは、どうやら皆な雛のようだ。親鳥は朝早くから子どもたちのエサを探しに海へ出かけているのだ。

そんな親鳥たちの帰りを観察しに海岸沿いにあるブルーリトルペンギンコロニーへ行くことにした。ペンギンが海と陸を行き来する時間帯は通行禁止になっているが、少し離れた遠方にはベンチが用意され、朝晩はそこからペンギンの往来を観察できるようになっている。各国から集まった大勢の観光客が海から戻ってくるペンギンたちを一目見ようと待ちわびていた。

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砂浜に打ち寄せる波を眺めながら淡々と時間が過ぎる。 ようやく辺りが暗くなってきた夜10時過ぎ。突如変化が現れた。気づくと、大海から一斉にペンギンたちが続々と姿を現した。その数の多さ、小さな体。まるでサーファーのように波に乗り、砂浜にひょいと両足を着いてぴょこぴょこ歩きだすその愛らしさ!早朝みんなバラバラに出かけたはずなのに、帰ってくる時はなぜ皆んな一緒なのだろう。なんともふしぎな光景。

上陸したペンギンたちは疲れた体を休める間もなくヨタヨタと懸命に目的地へ向かう。その目的地とは、子どもたちの待つ我が家。日がな一日親の帰りを待っている雛たちの鳴き声が何処からともなく町に響いている。

「早く帰ってきて~」「おなかがすいたよ~」

その声に応えるかのように、親鳥たちはそれぞれの巣を目指し一目散に町へ向かい家路を急ぐ。

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ここは人間も暮らす町、自動車だって走っている。巣穴と海を往来する路には危険もいっぱい。ペンギンが暗い夜道を横断する度に車にひかれてしまうのではと、見ているこちらがヒヤヒヤしてしまう。そこでこの町の住人たちは走行中の自動車に注意を促すため、ペンギンの看板を作ったり、ペンギン人形を設置したり、ペンギンたちが安全に暮らしていけるような工夫を毎夜毎夜ほどこしている。横断しようとしているペンギンに気づいた運転手たちも車を停めペンギンたちが道路を渡りきるまでじっと待つ。

ペンギンを追跡しているとようやく我が家に辿り着いた親鳥を見ることができた。巣穴でようやくひとつになったペンギンファミリー。熱い抱擁に心がジワ~っとあったかくなり、思わず「おつかれさま!」と声をかけたくなる。それにしても、よく我が家(巣穴)がわかるものだな~と感心する。

夜は一家団欒の時を過ごし、明くる朝また大海原に漁に出かけることの繰り返し。ペンギンの親鳥たちはかっこいい漁師でもある一方、誠実なサラリーマンみたいだ。

自分たちがペンギンを守っているなどという観念はなく、 「元々、ペンギンがいる場所に 後から私たちが来たんだから当然よ」とペンギンとの共存について笑顔で語る地元の人々。「鳴き声はうるさいし、あえて飼いたいとは思わないけれど、ペンギンと共に暮らすのもいいじゃない」といった構え。

ペンギンコロニーに集う私たち観光客を横目に「あいつらまた俺たちを見にきてるぜ」とか、ペンギン同士でつぶやいているかもしれない。「がんばれ~」などと声をかけようものなら「おまえたちこそ がんばれ」と言われてしまいそうだ。

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皆一斉に家族の元へ帰っていくけれど、夜遊びしたり浮気性のペンギンはいないものかと邪推するのは人間のこの私。生きる意味など追求しても埒があかないのならば「ただただひたすらに愛するものを守り、自分の成すべき役割を全うしているだけだぜ」とかっこよくつぶやいちゃってるかもしれない。

野生のペンギンと人間が付かず離れずのベストな関係がこの町には保たれている。そんな在り方もやはり粋で大人な町オアマルなのである。そっと遠くからペンギンを見守るおじさんの眼差しも印象的だった。

閑話

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先住民マオリの人々の挨拶は鼻と鼻をくっつけて息吹を分かち合うのだけれど、初対面の人とこんなにも顔が接近することはそうそう無く、ちょっぴり照れくさくて慣れるまでに時間がかかった。通りすがりの少年少女が、鼻と鼻をつける挨拶をやっぱり照れくさそうに披露してくれた。オアマルからさらに南下するとダニーデンと言う町にギネスブック認定の世界一急な坂道がある。 登りきると「がんばったで賞」的な認定証がもらえちゃう。もちろん私もいただきましたとも!

ダニーデンを訪れる機会がありましたらぜひともBaldwin Street (バルドウィン・スリート)でギネスに挑戦!…なんてね。

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そうそう、クライストチャーチでは移動式アイスクリーム屋さんに立ち寄ったのだけど、なにやら「恋が叶う」といわれているアイスクリーム屋さんだったような。

なぜそう呼ばれているのか由来を聞いたはずなのにアイスをぺろりと平らげたのと同時にすっかり忘却のかなた。しかも、本当にそう呼ばれているのか定かではなく…なんという無責任で曖昧な記憶…。どなたかそのような噂を聞いたことがあったらぜひとも教えてほしい。

それより…その後の恋の行方やいかに……?

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