2013.06.11

ありがとう - 50日の命

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宮崎県児湯郡川南町。ここに「児湯食鳥」という会社がある。児湯は、畜産大国宮崎県の中でもとりわけ畜産の盛んなところであり、ブロイラーの盛んな地域だ。

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児湯食鳥さんは宮崎に3工場、熊本に1工場、計4工場を構え、大量のブロイラーを出荷し、その量は国内トップクラスの生産量だ。すぐ調理できるようにカットされチルド(肉温0~2℃)の状態で流通、新鮮な状態で皆の食卓に届けられる。新鮮な状態で味わって頂くため、チルド流通させているが製造からプラス10日間の賞味期限しかつけない。高い技術と厳重なチェック体制のもと、安全でおいしいブロイラーを出荷している。

海外からはチルドで輸入できないため、未加熱処理のフローズンで鶏肉が輸入されている。今までは中国やタイなどから輸入していたが、最近はブラジルが主な輸入国となっているらしい。

児湯食鳥さんは、生産から販売までの体制をとっている会社、 '生販一体' 。アメリカやイギリスから、食肉用に改良された優秀な原種鶏が輸入され、そこから生まれる雛が PS (Parents Stock:種鶏)父さん、母さん。

児湯食鳥では、この種鶏の飼育から行っている。オス1羽に対しメス6羽を一緒の部屋に入れハーレム状態にして卵を産ませる。とりあげた卵は室温37度、湿度29%に保った部屋で母親のお腹であたためているのと同じように機械でその動きを再現し、角度を変え、卵をコロコロと動かす。そうすると決まったようにピタッと21日目に雛が孵るそうだ。

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一日15万羽のひなが孵る。孵ったその時、孵化場でひなにワクチンを接種する。ここではマレック病を防ぐワクチンが接種される。マレック病とは足が麻痺して立てなくなったり、内蔵や皮膚が病気を起こしたりする鳥類の感染症。接種方法は、センサーの付いた部分に雛の頸部を押し当てると、自動的に注射針が出てくる連続注射機で次々に接種される。

その他の感染症を予防するワクチンは、直接飲ませたり、スプレーで霧状にして吸い込ませたりする接種方法もあるという。ちなみに、日本では鳥インフルエンザワクチンは打たないそうだ。もしもワクチンを接種してしまうと、体内に抗体ができ、本物のウイルスが感染してしまった場合と区別ができなくなり、かえって感染が広がる恐れもあるという考えだからワクチンを打たないそうだ。

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ブロイラーとは8~12周齢の若鶏の呼び名である。通常、自然界の鶏はおよそ100日前後(4~5ヶ月)で成鶏になるが、ブロイラーは品種改良を重ねた結果、40~50日で3kgの成鶏へと到達する。通常の鶏より倍のスピードで、通常より大きくなるわけだ。

昭和40年代にアメリカから入ってきたブロイラー。ブロイラーのお肉の特徴は、柔らかく高タンパクで低脂肪であること。ブロイラー肉は若い世代に好まれがち。それに比べ庭の鶏の肉を食べていた世代は、ブロイラーの肉は油が少なく歯ごたえがないから、庭鶏のほうが好きだと言う。

児湯食鳥さんがもっている種鶏場は全部で46農場。ここでブロイラーの種卵を生産する。一羽につき165個の有精卵を産み落とし、一年半まで卵を取る。 1鶏舎200坪に約1万羽のひよこを入れる。ブロイラーは、同じ孵化日の雛たちが大量に鶏舎にオールイン(収容)され、雄雌の鑑別なくいっきにオールアウト(出荷)される。病原菌を持ち込んでウィルスが蔓延しないようにするため、このオールイン・オールアウトがポイント。 空舎期間は2週間。この空舎のあいだに行う洗浄と消毒、衛生管理が重要なので、この「空舎」もとても大切なのだという。

3kgに成鶏した鶏たちは深夜暗いうちにプロの捕鳥班によって捕獲される。捕獲され、食肉へと処理されるその羽数は本社工場だけで1日約6万7千羽。
そして、午前7時屠殺。

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工場の従業員さんは割烹着のような白いカバーに腕を通し、マスクと長靴を着用し、帽子をかぶる。工場内に入る前に全身にエアーシャワーを充分に当て、2重3重に手洗いをし、爪の中までブラシで洗浄する。消毒液に浸した布巾を絞り、手を拭き工場内に入る。職員さんたちのこのこれでもかというくらいの徹底した衛生管理のもとに鶏を裁き、梱包に至る。

しかし私が工場内に入り、一番印象的だったのは、衛生管理はもちろんのこと、行員さんたちの笑顔と挨拶だった。工場内に入った瞬間に「いらっしゃいませ、おはようございます。」と、とびっきりの笑顔で歓迎され、別のセクションに行く毎にその笑顔と挨拶で歓迎された。聞くところによると、児湯食鳥さんではオフィスに来られるどなたにも、手を止めて挨拶をしてくれるそうだ。

せせり、ささみ、もも肉、ムネ肉、ヤゲン軟骨、ひざ軟骨、手羽先、手羽元、肝、心臓、皮、テール。

一切の箇所も無駄なく商品化される。機械は進化し改良されこれまで裁くことの出来なかった部位まで裁けるようになっている。機械の運行と同時進行で肉の善し悪しも人の目できちんとチェックし、最後は金属探知機で肉の安全を確認し検査を通過したものだけが出荷される。

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ひよこの段階では皆一律に「ブロイラー」という名前だが、エサや飼育法によって新たなブランド名がつく。児湯食鳥さんの銘柄鶏は4種。日向鶏、日南どり、豊後どり、大阿蘇どり。なかでも豊後どりは飼育期間中一切の抗生物質、合成抗菌剤を使わず生菌剤カルスポリンを与え脂肪を減少し、うまみを引き出している。

工場内にいわゆる臓物臭がしないのはお腹の中に悪玉菌がないから異臭もしないのだそうだ。「元気な鶏はやはり美味しいですから。」と工場長。身体の基礎体力や免疫力を上昇させ、病気を寄せ付けない強い体作りにも励んでいるそうだ。

私は、工場員さんの手際の良さに圧倒され、「早い!」とおもわず口走ってしまった。すると私の言葉を受けふと垣間みたひとりのおかあさんの微笑み。その瞬間、人の暖かい温もりを感じた。そのおかあさんの中には感謝が内在していたように思う。この工場で働く一人一人が誰より一番知っているのかもしれない。鶏の命の有り難みと大切さを。

屠殺からわずか70分。ブロイラー(若鶏)たちは、わずか50日の命を我々人間に捧げているのだ。

中国の山村を訪れたときに私の目の前で殺されたブタを思い出した。その村人たちにとっては、ブタのレバーを訪問者に提供することが最高のおもてなし。見ないように目を閉じ、ブタの雄叫びがが聞こえないよう耳を閉じていた私に子どもたちが持ってきた飴玉が忘れられない。村の子どもたちは私なんかより何十倍も生き生きとして逞しかった。ブタが痛がらないような屠殺の仕方も知っていた。そして何より命の重みをちゃんと知っていた。臓物系の苦手なわたしもがんばってレバーをいただいた。ふしぎなことに「レバーはおいしい」と感じたのは後にも先にもその時だけだった。

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児湯食鳥さんの今後の展望を尋ねると、「生産、製造、販売において、海外への展開も進めています。衛生面に適合した製造ライン、設備を強化していますが、そのような技術面より何よりも大切にしたいのは"心をこめた商品づくり"です。我々は、一日17万羽の鶏の命をいただき事業をさせて頂いています。工場の従業員の皆さん立ちっぱなしのきつい仕事であります。なによりも感謝の気持ちを忘れずに働かないと。」と常務取締役小田氏。

品質管理はもちろん社員3千人一人一人の社員教育も徹底している。人一人が生きていく為に、今こうして沢山の人が動いている。

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工場の外に出ると「鶏魂碑」という文字が掘られた大きな慰霊碑があった。何百何千年も遥か昔から動物たちの命をいただきながら人間の命は繋がれ今も生きている。鶏の小さい命をもらい受け、同時にここで働いている人の労働も頂きながら生きている。わたしたちはいただいた命と共に生きていく。この'気持ち'こそがもっとも大切なのかもしれない。

命をわけてくれて「ありがとう」。 人の想いが感謝のスイッチに切り替わることで青春を人間へ捧げた鶏たちも報われるのではないか。その'想い'は必ず鶏にも通じると信じたい。

おまけ

現在、日本では全国165工場で年間6億3470万羽の鶏が処理されブロイラーが出荷されている。何を食べるか選択は自由だが、何を食べるにしてもその命をいただきながら生かされていることに変わりはない。 その命を伝授された人間がどう生きるのか、そして何をするのか。何百万もの無数の鶏たちにここで問われているような気がした。

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