2012.10.09

お腹-無限大の愛情空間

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2008年、遅ればせながら私は、西オーストラリアのヤンチェップ国立公園でコアラと初対面した。しかし、ようやく会えた彼らはユーカリの木の高い場所で気持ち良さそうに、ほとんど眠ってばかりだった。

少しくらい話し相手になってくれないものかと起床中のコアラを探すと、侮るなかれ木から木へジャンプしたり活発な一面もあるんだな。消化しにくい葉を食べたり、腸が長い点ではパンダに似ているが、歩き方は熊にも似ていて、またスローな動きはナマケモノを彷彿とさせ、見た目のふしぎさ・可愛さだけでなく、生態を知ると益々ふしぎな生き物だと思った。

コアラの主食はユーカリの葉、何百種類もあるユーカリの中からコアラが食べられるのは数十種しかない。葉の臭いをかいで食べれるものとそうでないもの(毒素)を嗅ぎ分けるグルメな生き物。ユーカリの葉はエネルギーとして動けるギリギリの乏しい栄養しかない。その上毒性も強く、コアラは解毒することに体力を使ってしまうため、一日のうち20時間くらいはお休みをし、起きているのは正味4時間ほど。

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コアラの母親は腸の中で半分消化したユーカリの葉をお尻から出して子どもに食べさせ、お母さんの"うんち"の中の微生物(バクテリア)を子どもの腸の中にも住まわせることにより、子供をユーカリの葉に慣れさせる。

コアラの腸は2mもあると言う。その長い盲腸で毒を発酵させ、消化吸収させているという。生き残るためにこんなに不自由な主食を選び、独自の進化を遂げてきたと聞いた。

オーストラリアには袋アリクイ、フクロネコ、フクロオオカミ、フクロモグラ、フクロモモンガ、カンガルー、コアラと袋をもった動物が多く生息している。もともとは地続きだった三大陸(オーストラリア・南アメリカ・南極)が分裂した際にオーストラリアへ分布した有袋類は幸運にも強力なライバルに見舞われず、生存競争に勝ち残ってきたのだと言う。

お腹の袋といえば、コアラと並んで頭に浮かぶのはカンガルー。西オーストラリア、パースは人と動物の距離がとても近く、都会で生活する人間のすぐそばに野生動物が存在している。

お腹に子どもを入れたお母さんカンガルーがぴょんぴょん道を横切ったり、ゴルフ場で芝を食べているカンガルーは頭上を飛んでいくボールに向かって「ナイスショー!」と喋りだしそうで、動じずにゴルフ観戦している姿はキャディーさん顔負けだ。

しかし、人間との距離が近いだけにトラブルに巻き込まれることも多いという。 カンガルーは夜行性の生き物。光を見ると突進する性質があるため交通事故が絶えない。

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同じ2008年の夏、私は怪我をした動物たちのケアをするリハビリ施設、ネイティブアーク(動物保護団体)を訪れた。オーストラリアで野生動物の保護活動に努めている団体であった。

犬に噛まれたり、肺炎にかかったトカゲや、捨てられていた化学薬品に触れてくちばしを火傷してしまったブラックスワンなど、人間による何らかの被害を受けた生き物たちがこの施設で治療を施され、完治したら再び野生へ返されていた。車で轢いてしまった鳥を乗用車に乗せてリハビリ施設へやってくる女性もいた。彼女は鳥を預けると施設へ20ドル寄付して帰った。このように町の人々の寄付によってこの施設は営まれていた。

そこでカンガルーの赤ちゃんに会った。その赤ちゃんはお母さんのお腹の中にいた時に自動車事故に遇ったと。残念ながら母親は死んでしまったのだけれど袋の中にいた赤ちゃんは助かった。

有袋類にとってお腹の袋は子宮と同じ働きをしているとても大切な場所。赤ちゃんは袋の中の乳首からお乳を飲んでいて、袋の出入り口はお母さんが自由にゆるめたり締めたりできるから赤ちゃんは落ちることがないのだそうだ。

事故に遇ったとき、お母さんカンガルーはきっとお腹の袋をぎゅっと閉じて我が子を守ったにちがいない。なんとも神秘的な袋の働き。無限大の愛情空間。母子の深い絆を知った。

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野生動物にとって楽園のような場所でも、人間との共存が大きな課題となるが、西オーストラリアでは人と野生動物が違和感なく溶け合い見事に共生していた。

リハビリ施設で元気に復活して大空に飛び立つ鳥を見守りながら「この瞬間があるからやめられないのよ。」と保護活動に転身したリーダーのカレンさんの慈愛に満ちた眼差しがとても印象的だった。彼女が数えきれないほど救ってきた何百何千という動物たちもきっとカレンさんの優しいハートを忘れることはないだろう。

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