2012.06.12

塩のキャラバン

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砂漠の舟と呼ばれるラクダ。
砂漠の遊牧民にとって、砂の大海原を渡れる舟はラクダだけであり、ラクダのいない生活など考えられないという。
ひょうきんな表情でのんきそうなラクダが、旅人の生死を分かつ重要なお役目を担っている。
ラクダがいかに砂漠的生活の中で欠かせない動物か。コーランには、神が創造した四つの驚異が記されている。第1は高みに押し上げられた「天」。第2はそそり立つ「山」。第3は広く横たわる「大地」。そして第4にラクダ。ラクダの存在により人は砂漠で活躍できるようになったからだ。

ラクダの長い長い行列を私はエチオピアで目にすることが出来たのは昨年の10月のこと。
エチオピアのメケレから100km、砂漠の入り口ブラ・ハレ村(標高640m)を通過し、海抜マイナス60mの塩の採掘場アサーレ湖へ。そこで見たのが白い大地にやってくるラクダの長~い長い行列。
総延長1km、まるで蜃気楼のように続くその姿は、思わず手をあわせて拝みたくなってしまうほど美しかった。

彼らは朝日とともにメケレを出発し、途中の村で税金を払う。塩の採掘に関する費用。
塩のキャラバンは8日間歩き通して塩の採掘場アサーレ湖に辿り着く。この白い大地に辿り着いたラクダたちはさすがにぐったりした様子で、時折、ミネラルが豊富な塩をおやつ代わりにかじっては口の周りをよだれでいっぱいにしていた。
45度の炎天下で、隊商たちは丸一日塩を掘り、1ブロック10kgの塩を22個(計200kg)をラクダの背中に積み、夕焼けに向かって再び標高2,000mのメケレへ塩を運搬。
キャラバン隊商の足は靴擦れをおこしており、私たちに「絆創膏はないか」と尋ねてきた。
そう、足元は決してすばらしい性能を併せ持った靴を履いているわけではなく、サンダルだった。それで充分だという極めてシンプルな生き方なのか。
ラクダも隊商たちも驚異的な体力と精神力で長い距離を旅していた。

ラクダの背中には重たい塩のブロックの他にヤギの皮の水筒も結びつけてあった。
その中身は水。ヤギの強くてしなやかな皮の毛穴から水が蒸発するという気化熱をうまく利用してあり、皮の水筒の中の水はいつも冷たく保たれている。
ポリタンクだとすぐに熱湯に変わってしまうのだそうだ。
このヤギの皮の水筒を数百年前から砂漠に入る最後の宿場町だった村で、約20Lを140ブル(およそ200円)で貸し出している。

昔から伝わる砂漠の遊牧民の素晴らしい知恵だ。

交通機関も整い、文明も発達し、トラックなどで荷物を運搬できる現代でも、塩のキャラバンは今も続けている昔ながらのラクダの運搬方法なのだ。
キャラバン隊商はこう言っていた。「ラクダは砂漠の大切な伝統。ラクダは大切な家族」だと。
ダナキル砂漠では塩のキャラバンの伝統を守り、大切にしていた。

あんなに大きな体にもかかわらず、人間がたずなを引きスピードを調整することができ、
どんな不毛な地でも広大な砂漠へも運んでくれて、活動の幅を広げてくれる、脅威の乗り物(ラクダ)。砂の大海を行く大きな舟。
一見お茶目なラクダは、神様が砂漠の遊牧民に与えたかけがえの無い動物だ。

ラクダのカラダ

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その特徴といえば、まず真っ先に思い浮かべるのがあの背中のコブ。
乾燥地帯、砂漠地帯の長距離を進む中、万が一カラカラに干涸びて死にそうになってしまった時、コブの中の水が給水タンクのような役割を担っているのだろうと私は勝手に想像していた。しかし、コブの内容物はなんと脂肪だという。
コブの脂肪から栄養補給をしているというのだ。その為、人を寄せ付けない厳しい砂漠のなかでも水が無くても何日間でも旅が出来るのだという。

コブというイメージは、私たち日本人にはあまり馴染みが無く、連想するのは、こぶ取り爺さん、こぶ付き、せむし、悪性の瘤など、どちらかといえば嫌われもののマイナスイメージ。
けれども、ラクダを所有する砂漠の遊牧民の間では、炎の最上部や、栄光、山の頂上などポジティブなものばかり。
ラクダのコブの頂上に乗るというのは、日本の概念だと"玉の輿に乗る"なんていうイメージなのかしら。

コブが大きい、高いというのは力強く頑丈だということにも繋がる反面、コブが無いというのは、病気か、疲れきってしまっている為か、未熟者か。つまり、コブは健康のバロメーターというわけだ。

それにしても、いったい何日水なしでも生きられるのだろうか?
私がエチオピアを旅していた時、砂漠の遊牧民アファールの人にこう訊ねられた。「君は、何日間水が無くても平気かい?」
こんなに太陽がギラギラと照りつける炎天下では「たった一日、いや半日でもひからびて死んでしまいます。」と私は答えた。
さて、ラクダはどうだ?
夏の場合は3日に一度、冬なら6週間水なしでも大丈夫なのだそうだ。
猛烈に喉が渇いているときには120Lもの水を一気に飲むことが出来るという。1.5Lのペットボトルに換算すると約80本分。
また、他の動物と違い、ラクダの場合飲んだ水は血液中に吸収される。ほとんどの哺乳類は赤血球の中に水が吸収されると、圧力で赤血球が破裂してしまう。
しかし、ラクダは水分を吸収して倍に膨らんだとしても破裂しないような仕組みになっているというのだ。

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さらに、ラクダは何十キロも先の臭いを嗅ぎ分ける優れた嗅覚をもっているのと同時に、もう一つ発達した機能は聴覚。
来る日も来る日も旅するラクダとキャラバン隊商たち。
照りつける日差しと、砂漠の恐ろしいほどの静寂の中ラクダの蹄の音だけがタッタカタッタカ鳴り響く。そういえば、エチオピアでもアファールの人–––々はコーランをよく歌っていた。
その蹄のリズムに合わせるように隊商はコーランを歌う。
その歌声が美しければなお、ラクダはその旋律に反応し上機嫌になり足取りも軽くなる。
私はその独特な裏返るようなコーランの旋律を耳にしながら、この単調な気の遠くなるような道のりを彼らはその音で乗り越えているのかもしれないと感じた。
音やリズムというのは彼らの精神にとって、とても大切な機能なのかもしれない。

エチオピアの旅の道中、ラクダが走っている姿を目にしたときは驚いた。
「ラクダが走ってる!?」 身近にラクダがいないせいか、私の頭の中ではラクダはのんびり歩くだけの生き物だと想像していたから。
しかし、ラクダをばかにしちゃいけない。
さすがに、短距離で馬と競争してしまうと敵わないかもしれないが、ラクダは持続力があるため30分余りは全速力を出すことが出来、早歩きなら一日中走ることも可能だという。
馬はフルスピードで走った場合20分もたない。
しかも馬は頻繁に水を飲み、渇水に弱いと来た。
砂漠の遊牧民にとっては手間がかかる。

まさに、乾燥地帯で生きていく為に創造されたかのような、特別な機能を兼ね備えた生き物ではないか。
ラクダは砂漠で生活する者にとっては大変役に立つ動物なのだ。

おまけ

恋煩いにはラクダにつくダニが効能あるんだって!?
恋狂いになった者には、ラクダのダニを衣類の袖に付着させると正気に戻るらしい。
ほんとうかな?今度また世界のどこかでラクダに乗る機会があるとしたら、ラクダのダニを袖につけて、玉の輿に乗ってみるか!?

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